異邦人の河
ビルの谷間のゴミの中に倒れている皮ジャンを着た青年が、起きあがって歩きだす。私鉄の踏切で何者かにドスで刺されてしまったこの青年が、傷口を押さえながら歩道橋を上っていくと、少女が川に身投げするのが目にはいったのであった。青年は、少女を助ける。彼女は朝鮮語をしゃべる--。山本と名のる自動車修理工のこの青年は、李史礼という本名をひたかくしに隠して生活している在日朝鮮人で、少女はやはり方順紅という名前の在日朝鮮人であった。史礼は順紅にも自分が在日朝鮮人であることを隠していたが、病院に見舞いにきてくれた彼女に「俺は李史礼だ……朝鮮人だ」と、ついにほんとうのことを告白してしまう。