幼い頃に別れた父を訪ね、母国であり異国の地ボスニアへと向かう一人の少女と、彼女の旅の道連れとなる二人の青年を描き、本作で第48回ロッテルダム国際映画祭のタイガーアワード特別賞を受賞した、エナ・センディヤレヴィッチ監督の初長編監督作品『Take Me Somewhere Nice』が、邦題を『テイク・ミー・サムウェア・ナイス』として9月13日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開となることが決定した。
少女アルマは、オランダ生まれのボスニア人。両親は戦火に揺れた祖国を離れ、オランダで彼女を育ててきた。やがて父はひとり祖国へ戻り、消息は遠ざかっていた。そんな父が入院したという知らせが届き、母に言われるまま、アルマはたったひとりでボスニアへと向かうのだった。
出迎えたのは、終始ぶっきらぼうで何の手助けもしてくれない従兄のエミル。部屋に置き去りにされ、キャリーケースは壊れ、荷物も取り出せず、居場所のない空間に身を持て余す。そんな時、アパートの扉の前で眠り込んでいた彼女に声をかけたのは、エミルの“インターン”を名乗るデニスだった。彼だけが、彼女の話に耳を傾けてくれるのだが…。
ようやく父のいる町を目指し、小さなキャリーケースを引いてバスに乗り込むが、休憩の間にバスは彼女を置き去りにし、荷物だけを乗せたまま走り去ってしまうのだった——。
監督は、ボスニア・ヘルツェゴビナ出身でオランダ育ちのエナ・センディヤレヴィッチ。長編デビュー作となる本作は、監督自身のルーツを主人公に色濃く投影した半自伝的な作品で、監督が心酔するジム・ジャームッシュの代表作『ストレンジャー・ザン・パラダイス』から多大なインスピレーションを受けている。「大人」とも「少女」とも言いきれないひとりの若い女性が経験する、このひと夏の物語は、青春ロードムービーであり、陽光きらめくバカンス映画の趣も湛える。アイデンティティが不確かな主人公の”自分探し”という普遍的なテーマを追求し、世界中から優れたインディペンデント映画が集うロッテルダム国際映画祭コンペティション部門でタイガーアワード特別賞を受賞し国際的にも高く評価された一本だ。
さらに、経済的格差が途方もなく大きい西欧(オランダ)と東欧(ボスニア)の文化的対立や、移民といったテーマがさりげなく織り込まれる。1992年にユーゴスラビアから独立し、激しい内戦を経験したボスニアには、今なお悲惨な紛争の傷跡が残るが、監督はアルマという新たな世代のまなざしを通して、そのネガティブなイメージを刷新した。
タイトルである『テイク・ミー・サムウェア・ナイス』は、監督が愛するスコットランド出身のポストロックバンド、モグワイの楽曲名に由来している。監督自身のルーツが色濃く投影されたアルマは「自分はどこに属しているのか」「本当の居場所はどこなのか」を問い続ける女の子。監督曰く、アルマというキャラクターを「カフカ的な旅に出る現代の『不思議の国のアリス』」と表現し、その複雑で曲がりくねった旅路を、撮影、美術、衣装などの映像的なディテールにこだわり抜いて描いた。
美しくもどこか荒涼とした風景を独自の構図で切り取るのは、撮影監督エモ・ウィームホフ。そして、ローファイで夢のような空気感を醸し出す音楽は、作曲家/シンガーソングライター/映画音楽家のエラ・ファン・デル・ウーデによるもの。ソニック・ユースによる疾走感あふれる挿入曲「Kool Thing」の使い方も絶妙だ。
世間知らずで気まぐれ、ふてぶてしくも繊細なアルマ役を演じるのはサラ・ルナ・ゾリッチ。旅の道連れとなるエミル役のエルナド・プルニャヴォラツとデニス役のラザ・ドラゴイェヴィッチは、それぞれ孤独や閉塞感を抱えた若者像を見事に体現している。
”どこにあるかもわからない素敵な場所”を探し求めるアルマは、決して「可哀想な迷子の女の子」ではない。監督が「静かな反抗と祝福の映画」とも定義するこのロードトリップ・ムービーは、若さの可能性を描きながら、主人公自身が気づかないうちに驚くべき変化と成長を遂げる物語でもある。
■『テイク・ミー・サムウェア・ナイス』特報
9月13日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
誰か連れ出して…この退屈な世界から。『テイク・ミー・サムウェア・ナイス』9月13日(土)公開決定!ティーザーポスター&特報映像解禁!
© 2019(PUPKIN)
6月5日(木)